今回は「ジェリーフィッシュは凍らない」の【ネタバレ・あらすじ・解説・要約・感想】です。
以前の『仮面山荘殺人事件/東野圭吾』ーネタバレ・あらすじ・解説・要約を10分読破!が好評だったので、
ミステリー小説としては第2弾ですね。
「ジェリーフィッシュは凍らない」は2016年に東京創元社から出版された「市川憂人」さんの作品で、
『21世紀版そして誰もいなくなった』という惹かれるキャッチコピーで、
第26回鮎川哲也賞受賞作
本格ミステリ・ベスト10 ”第3位”
このミス(2017) ”第10位”
週刊文春ミステリーベスト10 ”第5位”
エアミス研ミステリランキング ”第6位”
キノベス! ”第26位”
といった業績があります。
個人的に「クローズドサークル」と「叙述トリック」が大好きなので今回ご紹介するわけですが、
「クローズドサークル」としては見事、「叙述トリック」としては少し物足りないかも…といった感想です。
あまり御託を並べても仕方がないので、さっそく解説していきましょう。
※ ネタバレには ”注意書き” をしてあります
※ 私の文章は稚拙であるため、物語を楽しむためにも ”まずは原作” を読むことを強くおススメします
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ジェリーフィッシュは凍らない|ネタバレ・あらすじ・解説・要約・感想を10分で!
ジェリーフィッシュは凍らない|登場人物&簡単なあらすじ・要約・概要
まずは「ジェリーフィッシュは凍らないの ”登場人物” と ”簡単なあらすじ・要約・概要”」についてまとめておきます。
ちなみに「ジェリーフィッシュ」というのはクラゲのことで、クロクラゲなど氷点下でも凍らない種が多くいます。
本作では「気嚢式浮遊艇(=飛行船のこと)」の名称としても使われています。
「ジェリーフィッシュは凍らない」の主要な ”登場人物” は8人です。
ファイファー教授:ジェリーフィッシュ(気嚢式浮遊艇)を発表した研究者。技術開発部の部長で、航空工学の権威。
ネヴィル:副部長。実質的なリーダーで野心家。
クリス:研究員。実質的な副リーダーで真空気嚢の試作を担当。
ウィル:研究員。飛行艇全体の設計を担当。
リンダ:研究員。開発部唯一の女性で男に色目を使う。
エドワード:臨時の研究員(文中では派遣社員と表記)。
サイモン:研究員。飛行艇の試験には同情せず。
レベッカ:ジェリーフィッシュ(気嚢式浮遊艇)の真の発明者。10数年前に不審な事故死。
他に警察や軍部の関係者も登場しますが、事件に直接関係しないので省略します。
それでは、 ”簡単なあらすじ・要約・概要” です。
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ジェリーフィッシュの航行試験
時代は1983年。
当時から飛行船自体は存在しましたが、ファイファー教授らは ”真空気嚢” を使ったよりコンパクトな飛行船(=ジェリーフィッシュ)の開発に成功していました。
教授らの発明は非常に画期的で、莫大な富と名声を手に入れます。
しかし、その発明は当時大学1年生だった「レベッカ」の発明を盗んだもので、
「レベッカ」は何らかのトラブルに巻き込まれ、研究室で不審死をとげていました。
教授らは軍からの依頼で、ステルス性能をもったジェリーフィッシュを開発しており、
その飛行実験として、ジェリーフィッシュに6人で3日間の航行試験をします。
6人とは、
ファイファー教授、ネヴィル、クリス、ウィル、リンダ、エドワード
です。
研究員のサイモンだけは、航行試験に参加しませんでした。
第1の殺人とジェリーフィッシュの墜落
航行試験の2日目、最初の殺人が起こります。
被害者は「ファイファー教授」で、寝室から廊下に出るような姿勢で、
吐物を撒き散らしながら死んでいました。
ファイファー教授は航行試験中でも酒ばかりを飲んでおり、
急性の発作などを起こし、常備薬を飲んだものの間に合わずに死んだように見えました。
しかし、発作により薬を飲んだだけであれば
1、なぜ廊下まで這い出てくる必要があったのか
2、なぜ首元に引っかき傷があったのか
という疑問が残りました。
状況的に他殺だと断定する証拠はありませんでしたが、
酒や薬に毒を盛ればファイファー教授を殺すことは容易で、また研究の性質上、誰にでも毒の入手が簡単だったのです。
残された5人の乗組員は、互いに不信感を抱き始めます。
そんなとき、ウィリアムはジェリーフィッシュが徐々に山に近づいていっていることに気付きます。
ジェリーフィッシュは自動運転によって進路を保っていましたが、その航行プログラムが何者かによって改変されていたのです。
しばらく後、ジェリーフィッシュは雪原に不時着します。
5人の乗組員は全員無事でしたが、天候が悪く、雪山を下山することは不可能でした。
5人は誰が航行プログラムを書き換えたのか追究しようと試みますが、
結局誰にでも犯行は可能なように思え、犯人を特定することはできませんでした。
そんなとき、第2の殺人が起こります。
第2の殺人
第2の被害者は実質的なリーダーだった「ネヴィル」でした。
全員が集まるなか、ネヴィル自身が持参したワインを飲んで死んだのです。
ワインまたは紙コップに毒が盛られていた可能性が高く、犯行は外部からでも可能なように考えられました。
しかし
1、見回りをした結果、不審な痕跡が一切なかったこと
2、航行システムの改変が素人では(やや)困難なこと
3、派遣社員のエドワードを除く乗組員5人に殺されるだけの理由があったこと
から、やはり内部犯の可能性が高いように推測されました。
そして、物語は大きく動き出します。
反逆のクリス
ネヴィルの死後、クリスが「忘れ物を取ってくる」といって席を外します。
数分後、皆のもとに戻ってきたクリスは散弾銃を抱えていました。
そしてクリスは「どうせお前らは全員死ぬことになってたんだしな」と言い放ちます。
クリスは全員を殺そうとしますが、エドワードとウィルの機転の対応によって散弾銃を奪われ、
ウィルに襲い掛かったところを逆に散弾銃で撃たれてしまいます。
クリスは無残に死に絶え、「どうせお前らは全員死ぬことになってた」というクリスの発言から、
ファイファー教授とネヴィルを殺したのはクリスだったと考えられるようになります。
しばらくして、ウィルはエドワードに「レベッカの死の真相」について語りだします。
・ レベッカは研究目的でファイファー教授の研究室に通うようになった
・ ジェリーフィッシュの開発はすべて彼女の功績だった
・ しかし、ある時実験室で彼女が変死していた
・ 彼女には強姦された形跡があった
・ 事件を隠すため、ネヴィルとクリスによってレベッカの死体は偽装工作された
・ レベッカは事故死として警察に処理され、自分たちはレベッカの話をもとにジェリーフィッシュを作り上げた
そこまでウィルがエドワードに話すと、エドワードは言葉ではウィルを強く批判しませんでしたが、
”地の文” では強烈にウィルを弾劾しています。
第4、第5、第6の殺人…そして誰もいなくなった
事件は終わったかに思えた3日目の朝。
再び殺人は起こり、そして誰もいなくなります。
ウィルは寒さと扉をたたく音で目覚めました。
何事かと廊下に出ると、キッチンの扉が開いており、そこに2本の足が横たわっているのを見つけます。
それはリンダの死体でした。
ウィルは驚愕し、自分以外に残っているのはエドワードだけであることから、
真の犯人はエドワードだったのだと考えます。
ウィルが、食堂へ行くと誰かが椅子に座っていました。
ウィルは散弾銃を手に「エドワード」と呼びかけながら詰め寄りますが、返事はありません。
ウィルは不審に思い、座っている者の肩を揺らすと…身体がバラバラに崩れ落ちました。
生きたエドワードだと思っていたものは、首と手足が切りおとされた死体だったのです。
「もう生き残っているのは自分だけ…。やはり外部に犯人が…?」
ウィルは散弾銃を手に、ジェリーフィッシュの中を巡回します。
しかし、外部から侵入された形跡はやはりなく、犯人も見つかりません。
すると…、背後から…、
「なぁお前はどう思う?ウィル」と。
ウィルは後部を殴られ、永遠に意識を失いました。
以上が、「ジェリーフィッシュは凍らないの ”登場人物” と ”簡単なあらすじ・要約・概要” 」です。
続いて、事件の真相【ネタバレ】に移ります。
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「ジェリーフィッシュは凍らない 」のネタバレ・解説・感想
ここからは「ジェリーフィッシュは凍らない 」のネタバレ・解説・感想です。
作品をこの後に読みたくなるように、できるだけ簡潔に書いていきます。
また「あらすじ」を読んで、私の稚拙な文章で少しでも興味を持たれた方は ”原作” を読むことを強くおススメします。
定価1,900円(+税)と少し高価ですが、それだけのお金を出すだけの価値は十分にあります。
また、図書館でも借りられるはずなので、できれば原作を読んでいただきたいと思います。
それでは、簡単な真相トリックのネタバレです。
まず犯人は「エドワード」です。
「エドワード」は10歳の時「レベッカ」に恋をしており、
レベッカを殺した研究員の6人を恨んで皆殺しにしたのです。
「あらすじ」では省略しましたが、実際には「そして誰もいなくなった」や「十角館の殺人」のように、
刑事・探偵側のストーリーが並行して進んでいます。
刑事たちは「ジェリーフィッシュに6人乗っていた」ということは理解していましたが、
死体見分から、その6人は
ファイファー教授、ネヴィル、クリス、ウィル、リンダ、エドワード、サイモン
だと考えていました。
というもの、バラバラの死体として発見されたのは「エドワード」ではなく「サイモン」だったからです。
また、研究員の名簿にも「エドワード」の名前は一切ありませんでした。
これは「ネヴィル・クリス・サイモン」の3人が、他のものを皆殺しにし、
自分達だけは国外に逃げようとしていた計画に必要だったからです。
ネヴィルたちは、ジェリーフィッシュの発明者がレベッカだと発覚する危険を感じ、
自分達3人だけは行方不明扱いにし、他のものを死体として発見させれば、軍から追われずに逃げ切れると考えていました。
そのためにできるだけ死体は多い方が良く、死体役として「エドワード」の素性を世間から隠した方が都合が良かったため、
警察は「エドワード」の存在に気付けませんでした。
そして、ここからが叙述トリックの肝です。
文章を読む限りでは、
「6人全員が1つのジェリーフィッシュに乗っていた」とミスリードさせていますが、
実は「ジェリーフィッシュは2つあり、それぞれに3人ずつが乗っていた」のです。
ネヴィルらの計画では、一方のジェリーフィッシュの航行プログラムを改竄し、
そちらだけ雪山に墜落させ、乗組員の「ファイファー教授、ウィル、リンダ、エドワード」の4人を殺そうと考えていました。
(その後自分たちは国外脱出し、警察には雪山で行方不明扱いしてもらう算段だった)
しかし、その計画が研究室に盗聴器を仕掛けていたエドワードにばれ、逆に利用されてしまいます。
エドワードはさらにプログラムを書き換え、ジェリーフィッシュ2つとも雪原に不時着させるように細工します。
その結果、2つのジェリーフィッシュは雪山で孤立無援となり、
「燃料を節約する」という目的のもと、1つのジェリーフィッシュに全員が集まり、
完全なクローズドサークルが完成されました。
エドワードは全員を殺害した後、死体のあるジェリーフィッシュは燃やし、
残ったジェリーフィッシュで逃亡することで、自分がいた痕跡を一切残さずに完全犯罪ができるともくろんだのです。
※ ジェリーフィッシュに乗船しなかった「サイモン」は事前に死体をバラバラにしておき、
クーラーボックスなどに分けて乗船させたため、他の5人には気付かれませんでした。
実際に警察は「外部犯がいたとしても、悪天候の中雪山を下山するのは困難」として、
捜査に難航しました。
しかし、ジェリーフィッシュの目撃証言が、見られた場所・時間ともにあまりにバラバラであったことから、
警察は2つのよく似たジェリーフィッシュが時間を空けて航行していたのではないかと推理し、
登場していたはずの ”6人” とは別に、もう1人誰かいたのではないか…と感付かれます。
そして、レベッカの誕生日にエドワードが墓参りしていたことから、
”7人目” がエドワードだったと初めてわかり、犯人の特定にいたります。
以上が簡単な【ネタバレ】ですが、きちんとトリックが伝わったでしょうか…?
もしよく分からないという方は、やはり原作をぜひお読みになってください。
「ジェリーフィッシュは凍らない」は、叙述トリックとしては意外性が低く、
「そして誰もいなくなった」「十角館の殺人」と比べるとどうしても読みごたえにかけますが、
クローズドサークルものとしてはトップ20に入るくらいの名作だと思います。
”トップ20って低いんじゃ…” と感じるかもしれませんが、
個人的に綾辻行人さんの「館シリーズ」と、横溝正史さんの「金田一シリーズ」が上位を占めているので、
単発小説としてトップ20は良作だったと感じています。
叙述トリックとして評価が低いのは、やっぱり ”意外性・衝撃度” が大きく劣るからで、
おそらく市川さん自身も叙述をメインにしたいわけではないと思うのですが、
見せ方・暴き方がかなり雑です…。
警察は「犯人がどうやって雪山を下山したのか」という点に注目していますが、
怨恨目的の犯人なら、全員を殺害したあと雪山で自殺することも考えられますし、
何より「ステルス性能をもったジェリーフィッシュ」が取り上げられている以上、
協力者が別のジェリーフィッシュを使えば良かっただけじゃ…や、
事前にジェリーフィッシュが着地予定の場所付近にスノーモービルでも置いておけば…など脱出方法はいくらでも考えられます。
一応、本文中でも ”目撃情報がない” などの理由から、他の脱出方法を消去しようとしていますが、
現実的に全方位の目撃を集めることなど不可能ですし、説明に強引さが窺えます。
ただ、脱出以外の問題に関しては「時代が1983年」ということを考慮すれば、
レベッカの犯人捜しの杜撰さやPC復元の無能さ、調査方法の違和感などはかなり納得できます。
また、「ジェリーフィッシュが2つある」というトリックに関しても
1、ウィルとクリス・ネヴィルが無線機で会話している点(距離的にすぐ側のはずなのに、なぜ無線を使う…?)
2、ファイファー教授とエドワードのやり取りの違和感(同室っぽいのに、行動・発言内容が不自然)
といった表現から、かなりフェアに書き上げられていると感じます。
作品全体としては、ストーリー・トリックともに合格点でしょう。
願わくば、警察のサイドストーリーをもっと短くするか、伏線・ミスリードをちりばめて欲しかったなぁ…と個人的には思います。
「十角館の殺人」を意識したのかもしれませんが、
人物描写・時間軸的に警察側に犯人がいることはあり得ないので、
早々に警察側のストーリーはどうでもよく感じてしまいます。
せめてエドワードの容姿に近い人物を登場させて、間違った推理をさせて欲しかった(あくまでフェアな方法で)
ただ「謎解きはディナーのあとで」などが好きな方は、サイドストーリーも十分に楽しめるのではないかと思います。
以上、「ジェリーフィッシュは凍らないのネタバレ・解説・感想」でした。
念のために追記しておくと、「ジェリーフィッシュは凍らない」を読み終わった後に、
とくに読み返すこともせずただ書きなぐっただけなので、人物説明は大丈夫だと思いますが、
トリック・状況などは間違っている可能性があります。
また、偉そうに批評してしまいましたが、
私の文章自体が市川さんとは比べ物にならないほど粗雑なので、やはり原作を読むことを強くおススメします。
今回はネタバレまで書いてしまったので、もう読む気がなくなってしまったかもしれませんが、
もしそういったご意見が多いようであればすぐに記事を削除するので、ぜひご指摘ください。
今回はあくまで自分がおもしろいと感じた、超人気作にはなれなかった(?)ミステリー小説を普及させたいという目的で書いたものです。
そのため、小説を買わずに済んだというのは本位に反するので、
この記事を読んでいただけた方は、ぜひ原作を読み、またおもしろいと感じたら周りの人に布教していってもらえればと思います。
図書館を利用すればタダで読めるはずなので、
同系統の「そして誰もいなくなった」「十角館の殺人」と一緒に借りてみてはいかがでしょう?
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
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