山月記/中島敦【あらすじ・解説・簡単な要約・読書感想文】

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今回は『山月記/中島敦のあらすじと解説』です。

「山月記」は、誰もが抱く”自信・不安・身勝手さ”がもととなって、主人公が虎に成り果ててしまうお話です。

Sangetsuki-Nakajima Atsushi-Synopsis

 

文章は本当に見事としか言いようのない、素晴らしい漢文調で、朗読するごとに言葉の美しさ、表現の鮮やかさを再認識できます。

今回は『山月記/中島敦【あらすじ・解説】・簡単な要約・読書感想文』として、

短く・わかりやすく” 書いていくので、一流の漢文学をお楽しみください!

 

※ 時間のない方向けに、最初に「まとめ」を載せています

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山月記/中島敦【あらすじ・解説・簡単な要約・読書感想文】

「山月記/中島敦|あらすじ・解説・簡単な要約・読書感想文」まとめ

・ 「李徴(りちょう:主人公)」は頭がよく、若くして役人になった

・ しかし、李徴は傲慢(ごうまん)な自信家で、すぐに役人をやめ、詩を作るようになった

・ ところが、詩人としては成功できず、生活は次第に苦しくなり、ついに発狂した

・ 1年後、李徴の親友だった「袁傪(えんさん)」は山林を通っていた

・ すると、1匹の虎が飛び出してきたが、袁傪を見るなり草むらに逃げ込み「あぶないところだった」といった

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・ 袁傪は、その声が親友の李徴のものだと気づき、「なぜ虎になったのか」聞いた

・ 李徴は昨年、自分を呼ぶ声につられて走っているうちに、気がつけば虎になっていたといった

・ そして、李徴はたった1つのお願いとして、自分の未発表の詩を世間に発表してほしいと袁傪に頼んだ

・ 袁傪は快く引き受けたが、その詩には「何かが欠けている」と感じた

・ その後、李徴は自分の自信と不安から、自分が虎になったのではないかと分析した

・ そして二人が別れる直前、李徴は最後に、故郷にいる家族の世話を袁傪にお願いした

・ 別れた後、袁傪が後ろを振り返ると、1匹の虎が茂みから飛び出し、月に向かって吠えた

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『山月記/中島敦』の簡単・分かりやすい要約

 

『山月記/中島敦』の主な登場人物は2人です。

 

1、李徴(りちょう):主人公。自己を過信する一方、才能に不安も感じている。内面にふさわしい虎となる。

2、袁傪(えんさん):李徴の親友。草むらで、虎に成り果てた李徴と遭遇する

 

ここからは『山月記/中島敦の簡単・分かりやすい要約』として、概要だけ説明していきます。

 

 

「李徴(りちょう:主人公)」は頭がよく、若くして官吏(かんり:役人のこと)となりました。

 

しかし李徴は協調性に乏しい人間であるとともに、自信家でもあったため、地方の役人であることに不満を持ち始めました。

 

ほどなくして李徴は役人をやめ、熱心に詩を作るようになりました。

 

しかし、詩人としては成功できず、生活は次第に苦しくなっていき、李徴は焦りだしていました。

 

そして1年後、李徴は発狂しました。

 

翌年、李徴の親友だった「袁傪(えんさん)」という役人がある山林を通り過ぎようとしていました。

 

その時、1匹の猛虎(もうこ)が草むらから飛び出してきました。

 

虎は袁傪の姿を見るなり、たちまち身をひるがえして、人間の言葉で「あぶないところだった」とつぶやきました。

 

袁傪は、その声が親友の李徴のものだと気づき、李徴に「なぜ虎になったのか」尋ねました。

 

李徴が言うには、外から自分を呼ぶ声が聞こえてきて、その声を追っているうちに山に入り、

四つ足で走り、気がつけば虎になっていたらしいのです。

 

そして、李徴は1日のうちに数時間だけ人間の心に戻る時間があるそうです。

 

しかし、その時間もどんどん短くなっていて、まもなく李徴は完全に虎になるだろうと予期していました。

 

李徴は自分が虎に成り果ててしまう前に、袁傪に1つだけ頼みたいことがあるといいます。

 

その頼みとは、李徴がこれまでに作った未発表の詩を、世間に発表したいというものでした。

 

袁傪は快く引き受け、李徴の詩を聞きますが、

「確かにどれも素晴らしいが、どこか微妙な点で欠けている

と感じていました。

 

その後、李徴は自分が虎になった理由を考察しました。

 

李徴「おれは自分の才能を過信していたが、同時に才能がないことが明らかになるのが怖かった。

そんな臆病な自尊心と、尊大な羞恥心(しゅうちしん)にふさわしいように、おれの姿は虎になったのだ。

 

やがて空が明るくなっていき、二人に別れの時が訪れました。

 

李徴は最後に、故郷にいる家族の世話を袁傪にお願いしました。

 

袁傪は快諾し、二人とも号泣し、ついに別れを告げました。

 

しばらくして袁傪が後ろを振り返ると、1匹の虎が茂みから飛び出し、月に向かって吠えました。

 

 

以上が簡単な『山月記/中島敦』の要約です。

もう少し章をわけて説明した方が楽しめると思うので、以下に『山月記/中島敦』のあらすじも載せておきます。

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『山月記/中島敦』のあらすじ・解説

 

ここからは「山月記/中島敦」のあらすじと解説です。

 

才能を過信し、発狂する李徴(りちょう)

「李徴(りちょう:主人公)」は大変頭がよく、才能に恵まれた青年でした。

 

若くして試験に合格したため、官吏(かんり:役人)の職に就くことになりました。

 

しかし李徴は頑固者で気性が荒く、協調性に乏しい人間であるとともに、自信家でもあったため、

田舎の役人であることに不満を持っていました。

 

ほどなくして李徴は役人をやめ、故郷に戻り、人と会うことを避けて、詩を作ることに没頭しました。

 

しかし、詩人としてなかなか有名になることはできなかったため、

次第に生活は苦しくなっていき、李徴は焦りだしていました。

 

その後、一度は家族(妻と子ども)を養うために役人の職に戻りますが、

徐々に不満はたまっていき、自分を否定する人間を許せなくなっていきました。

 

ーそして、1年後。

 

汝水(じょすい:河南省にある川)のほとりにて、李徴は発狂しました。

 

袁傪(えんさん)がみた虎の正体は…

翌年、この地方に「袁傪(えんさん)」という役人がやってきました。

 

袁傪は ”この地方には人喰い虎が出るから、昼間しか通ってはいけない” という話を聞いていましたが、

たくさんの人間がいたため、忠告を無視して薄暗いうちから出発しました。

 

袁傪たちが月明りを頼りに、林の中を通り過ぎようとしたその時ー

 

1匹の猛虎(もうこ)が草むらから飛び出してきました。

 

虎は袁傪に飛びかかろうとしましたが、袁傪の姿を見るなり、たちまち身をひるがえして草むらに隠れました。

 

その草むらの中からは、

「あぶないところだった」

と、人間の言葉で何度もつぶやいていました。

 

袁傪には、その声に心当たりがありました。

 

袁傪「その声は、わが友、李徴ではないか?」

 

袁傪と李徴は役人の同期で、袁傪は李徴が唯一心を許した親友だったのです。

 

袁傪は問う、虎になった理由を…

袁傪と李徴は、しばらく世間話や噂話などに語らい合いました。

 

そして、袁傪は李徴に尋ねました。

 

袁傪「なぜ虎の姿になってしまったのか…?」

 

草むらになかに隠れている李徴は答えました。

 

李徴「今から1年前、宿に泊まっていると外から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

その声を追って走っているうちに、気づけば山林に入り、四つ足で走っていた。

そうして翌朝、川に自分の姿を映すと、すでに虎になっていたのだ。」

 

そして、李徴は1日のうちに数時間だけ人間の心に戻る時間があるというのです。

 

そのたびに、虎の自分が行った残虐な行為の痕跡をみつけ、情けなく、恐ろしく、また腹立たしいのだと。

 

しかし、その人間の心に戻る時間も日に日に短くなっているそうです。

 

まもなく李徴が人間の心を失い、完全に虎となる日が近づいているようでした。

 

李徴の最後の望み

李徴は自分が本当の虎になってしまう前に、袁傪に1つだけ頼みたいことがあるといいます。

 

その頼みとは、李徴がこれまでに作った未発表の詩を、袁傪を介して世間に発表したいというものでした。

 

袁傪は快く引き受け、李徴が暗唱(あんしょう)した30ほどの詩を部下に書きとらせました。

 

李徴の詩は確かにどれも素晴らしく、一流のものでした。

 

しかし、同時に袁傪は、

「どこか微妙な点で欠けている」

とも感じていました。

 

李徴が詩を伝え終わり、さらに即興で自らの境遇を詩で詠むと、

”自分がなぜ虎と成り果てたのか” を分析し始めました。

 

李徴「おれは自分の才能を過信し、人に教えを請うことはしなかった。

同時に、才能がないことが明らかになるのが怖くて、努力をすることを怠った。

ともにおれの臆病な自尊心と、尊大な羞恥心(しゅうちしん)のせいだ。

そんな醜い心にふさわしいように、おれの姿は虎になってしまったのだ。」

 

二人の別れと、李徴の最後

やがて空が明るくなってきました。

 

李徴の心が虎に戻る時間が、まもなく訪れようとしていました。

 

李徴「もはや別れを告げねばならぬ。

酔わねばならぬときが(=虎に戻るときが)近づいたから…」

 

最後に李徴は、故郷に残してきた家族の世話を袁傪にお願いしました。

 

袁傪は快諾し、二人とも号泣し、ついに別れを告げました。

 

袁傪たち一行が丘の上に着いたとき、後ろを振り返りました。

 

たちまち、1匹の虎が茂みから飛び出し、虎は淡く浮かぶ月に向かって吠えました。

 

そして、虎は草むらへと戻っていき、二度と姿を見せることはありませんでした。

 

 

以上が「山月記/中島敦」のあらすじです。

それではここから「解説・感想」を少し述べておきます。

 

まず「山月記」という作品は、中国の「人虎伝(じんこでん)」という物語がもとになっています。

 

ただし、「人虎伝」のテーマは ”因果応報” で、恋愛がらみのイザコザ(嫉妬心・執着心)から、

主人公が虎になって、愛人の家族を殺すというお話です。

 

一方で、「山月記」は ”傲慢さ・自己顕示欲” が原因で李徴は虎になっています。

 

つまり、「山月記」の作者である「中島敦」は、”虎になる” という設定はパクりつつも、

自らの内面の醜さ = 猛虎” と表現したのです。

 

もう少し詳しく解説していきましょう。

 

李徴は自信家であると同時に、”自分には本当は才能がないんじゃないか” という不安も抱えていました。

 

ただ ”自分は優れた人間だ” と信じていたので、人の命令に従うことをよしとせず、

一方で、”自分が無能であることが発覚すること” が怖くて、他人との接触をどんどん断っていきます。

 

つまり、「自信・不安・自己中心的」であった内心が原因で、外見が虎へと変貌したのです。

 

ここで、ちょっとご自身に置き換えて考えてみてください。

 

「自信・不安・自己中心的」でない人間など存在するでしょうか?

 

一読すると「山月記」という作品は、”傲慢な李徴が報いを受けて、虎に化けた” と思い込みがちですが、

元来、人間には ”虎になる要素” が多分にあるはずで、李徴が特殊なケースではなかったということがわかるはずです

 

実際に原作の本文中でも、

李徴「人間は誰でも心に猛獣を飼っている」

と述べています。

 

すなわち、”人間が虎にならないのは、理性で猛獣をコントロールしているからだ” ということです。

 

その理性がぶっ飛んでしまった李徴は、心の猛獣に支配されて姿まで ”虎” になったというわけですね。

 

では、少し別の角度から「山月記」も解読してみましょう。

 

李徴が暗唱した30の詩を聞いた袁傪は、見事な作品だと思いつつも、

「何かが欠けている」

と感じています。

 

では、一体 ”何が” 欠けているというのか…?

 

あくまで推測ですが、欠けているものは「李徴が他人を思いやる心」だったと考えられます。

 

読み解くうえで重要なポイントは、”李徴が袁傪にお願いをした順番” です。

 

順番は

1、自分の詩を世に広めたい ⇒ 2、家族の世話

でした。

 

本来、まずは家族のことを心配し、その後に自分がやり残したことをお願いするのが ”人間” としての常識でしょう。

 

しかし、李徴は一番に「自分のこと」をお願いし、袁傪と別れる直前になって「家族のこと」を思い出したように追加しています。

 

よって、「欠けているもの」は「他人を思いやる心」であり、

「李徴の自己中心さ・自己顕示欲・名誉欲」が「作品を物足りないもの」におとしめたのでしょう。

 

実はこれは作者の「中島敦」自身にも当てはまることであり、

今でこそ超有名な一流作家と認められましたが、作品が高く評価され始めたのは彼が亡くなってからです。

 

「中島敦」は才能に恵まれ、努力のかいもあって現在の東京大学に進学しますが、

持病のせいで職を失い、その後に発表した小説もそれほど有名になることはありませんでした。

 

ひょっとしたら、中島敦は山月記を通して、自らを李徴に投影していたのかもしれませんね。

 

山月記はけっこう読みにくい作品なので、正直なところ中学生以下の学生にはあまりおススメできません。

 

しかし、漢文調の文章は本当に見事で、漢語の用い方、読点の打ち方など、

私がこれまで読んできた小説でダントツに素晴らしい作品です。

 

そのため、できれば高校生~大学生に、ぜひ全文を一読してほしい作品だと思います。

 

私の時代は高校の教科書にちょこっとだけ載っていたのですが、今はどうなんでしょう…?

 

もし少しでも覚えているようであれば、ぜひ全文を読み、見事な作風を楽しんでください!

 

以上、『山月記/中島敦【あらすじ・解説・簡単な要約・読書感想文】』でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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